インタラクティブとは何か


インタラクティブ(interactive)という言葉を最近よく耳に(目に)する。この言葉自体は、そう新しいものではない。 元来「相互作用的」の意味で用いられてきたが、近年のパソコン普及、そしてパソコン通信やインターネットのようなネットワークの普及に伴って新しいニュアンスを帯びるようになった。 それを日本語では「相互方向的」とか「対話的」と訳すことがある。

旧来の情報メディア、つまり書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオに於ては情報は一から他へと一方的に流されるだけだ。 もちろん投書とか、記事や番組への読者・視聴者参加という形でリアクションの余地はあるものの、それらは極く限られているし、情報発信者側の編集と取捨選択で提示される以上、真の相互作用は存在しない。 そして既成メディアでは情報発信者の資格なり機会なりを与えられるのは一部の人に限られていた。

この関係ではまた、情報の与えられ方に受け手がアクションを及ぼし得る余地も少ない。テレビ番組を例に取ると、番組数が増えることにより視聴者の選択の幅は広がるものの、番組の組み立てに受け手が影響を及ぼすことはほとんどない。 しかし同じような情報を、CD-ROM であれ、或いはWWW上のコンテンツとしてであれ、ユーザが操作しやすいようにプログラムすれば、私たちはそれをパソコン上で自分の必要に応じてカスタマイズすることが出来るだろう。

無論そのためには、コンピュータが専門家や一部のマニアのための道具から、誰でもが使いやすいものに変わらなければならない。今日のパソコンの普及には、Windows や Macintosh の如く GUI 化した OS の登場が大いに貢献しているのは周知の通りだ。 コンピュータが使いやすくなり、仕事や生活が便利になることは、それによって人間を怠惰にすることが目的なのではない。そうではなく、専門的知識やキーボードの複雑な操作といった煩瑣な作業から解放することによって、 ユーザを本来のより純粋な目的に専心させることが目的なのだ。

コンピュータによる全自動化と言うことを唱える人がいるが、あくまで操作の主役は人間であるべきだ、と思う。とりわけセキュリティに関わるような問題では、常にユーザ自身によるチェックが入らないといけない。 何から何までオートメーション・プログラムが全部やってくれればいい、という考え方では、人間は愚かな怠け者になるだけだ。 愚かな、というのは、それによって人間が自分自身を危険にさらす恐れがあるからであり、怠け者、というのは、それによってものを考える機会が少なくなるからだ。

インタラクティブというテーマに話を戻すと、パソコンの操作性を利用した情報のカスタマイジングは1つの有効なあり方だが、そこでは情報と受け手との関わりはなお個人的なものにとどまる。 これに対してネットワークを利用すれば、より多くの人々との間での情報の共有や交換が可能となるだろう。また特にインターネットでは、誰もが情報発信者となることができる。 今日主流となっているWWW上のホームページでは、無名の一般庶民ですら、大企業や官庁などと全く同じような土俵に立つことが出来るのだ。

この形式は、現在はもちろん Web 上の情報という分野にとどまっているが、いずれは個人と社会との全く新しい関わり方を可能にする未来を予感させる。 既成のマス・メディアにあっては、社会は情報を発信する手段を持つ一握りの人々と、それをただ受け入れるだけのマスという名の匿名の大衆に2極化されていた。 情報を発信する側が企業であるならば、受け手は専ら消費者であり、「お客さん」なのだ。そこでは、情報発信者と受け手たちとの間には天地ほどもの開きがある。 だがこの形式が変われば、サービスを提供する側と消費する側、或いは雇用者と被雇用者という図式、そして労働の本質にも大きな変化が生まれるかも知れない。

政治に関してもしかり。現今の民主政治の形態では、残念ながら、「国民は選挙の期間中は主人だが、選挙が終われば奴隷と同じだ」と述べたルソーの時代と或る面であまり変わっていない。 しかしネットワーク社会が普及すれば、本当の意味で国民の政治参加に道が開けるであろうし、党利党略や密室の談合政治、官僚主導型の政治に風穴を空けることができるかもしれない。 ネットワークの進化は、単に役所の手続きや通信が便利になる、といった皮相面にとどまっては終わらないだろう。

非常に空想的な話に響くかも知れないが、少なくとも Web 上にあって誰もが平等な資格を持つ情報発信者たり得るインターネットの出現は、その可能性を予示している。 インターネットでは、情報の内容に歯止めがかけられない、という警告も無論あるのは知っている。だがその危険は、情報の一方的な垂れ流しによって受け手が無意識のうちに暗示にかけられかねない既成メディアの危険とは比べものにならないものなのか。 その上旧来のマス・メディアでは、情報発信者と受け手との間に天地ほどの差がある、という錯覚を与えかねない関係が成立している。

例えば、テレビで言っているから信用できる、テレビに出ているからすごい、といった錯覚だ。ごく普通の人が、テレビに度々出ることによって文字通り星のような存在(スター)になることに、多くの人は疑問を感じないだろうか。 本当に才能や芸のある人でも、マス・メディアに載らないだけで低く評価される現実はおかしくはないだろうか。

インターネットは、そうしたものではない。ホームページを持ったからといってスターになるわけはなく、あくまで等身大の人間のままだ。 だがその人は、お客さんとしておだてられ、単に購買力を持つ以外には何の取り柄もない、無名のマスとも、もはや全く異なる。情報にアクセスする側は、その人が何を述べ、どんな情報を提示しているかでその人を評価できる。 確かにそれはバーチャルな人間像には違いないが、肩書きや知名度だけで評価される世間の虚像とは違っている。

そこでは有名人も無名の一般人も、情報発信の手段を平等に与えられている。有名人、とりわけテレビの人気者のオフィシャル・ホームページほど空々しいものはない。(ファンが作ったものは別。) その手のホームページが本人自身の手で作られることはめったになく、大抵は専門家まかせだ。ろくに更新もしていないホームページも多い。それでも有名人というだけで、多くの人がアクセスし、ファンだと言ってメールが殺到する。 それは今なおテレビの影響力の方が絶大だからだが、そうした状態がいつまで続くだろうか。

しかしインターネットが情報発信の新しい形式を提供しても、アクセスする側に積極性がなければ、インタラクティブという関係は成立しない。 せっかくインターネットにアクセスできる環境が整っても、まだ多くの人が、何か面白そうなページを野次馬的に見て回るだけ、というのが、残念ながら現状ではなかろうか。 それは今の人が、洪水のような情報を一方的に与えられ、それをただ受け取るだけのネガティブな情報受容に慣らされたテレビ世代であることに一因があると思う。その癖が、新しいメディアを目の前にしても抜けきらないのだ。

情報を本当に活かそうと思うのなら、単に情報を受け取るだけではダメだ。大抵のホームページが、情報の発信者に対してメールを送れるシステムを備えている。 書き込み可能な掲示板を持つホームページもある。そうしたページにアクセスしても、何もせずにその場を離れる人が大半だが、自分が思うこと、感じたことを書き込んでみよう。 それが情報のリアクションであり、ページの管理者が誠実であるならば、必ず反応が返ってくる。そうすると、情報の価値も全く違ったものになるはずだ。

電子メールという画期的な通信手段については、ここであらためて説明するまでもないが、多くの人がそれを有効に活用していない。 単に親しい人の間同志でメッセージのやりとりをするだけなら、電話や郵便・ファクスでも足りるはずだ。 だがインターネットやパソコン通信での情報発信に対して、そのリアクションとして電子メールを利用すれば、そこに相互方向的(インタラクティブ)な関係が生まれる。 どんなに遠くにいる未知の人に対しても対話が成立する。

残念なのは大手企業がホームページでのアンケート募集に懸賞という従来型手法を使うようになったので、これに餌付けされたユーザは、「懸賞付きじゃなけりゃ送らないよ」と考えるようになったことだ。 元来懸賞やプレゼントは、雑誌や新聞広告でのアンケートのように、わざわざ切手を貼ってポストに赴く手間を嫌うユーザの意欲を刺激するために取り入れたはずで、 ブラウザから簡単に送信できるインターネットでは、その意味はない。また懸賞目当てで自発性のないアンケートでは、住所と名前以外はデタラメ、ということだってあるのだ。 もっと不幸なのは、懸賞やプレゼントを付ける資力のないホームページには反応が少なくなることだ。

これまでインターネットは無償で情報を発信する有志の人々のボランティア的な活動のおかげで発達してきた。 対価を求めない情報、フリーソフト、フリーのHP素材、フリーの音楽・・・今でもインターネットを活気あるものにしているこれらの無償活動は、お金を要求しない代わりに、ユーザの喜ぶ声を期待しているはずだ。 あなたがそれらをただ食いするだけで、感想のメールを送るといった簡単な感謝のリアクションもしないならば、そのうちそうしたフリーのコンテンツは消えてしまうよ。 それどころかインターネット自体が、資力を持つ一部の人々だけが情報発信できる従来のマス・メディアと違わないものに変質してしまうかも知れない。

[1998/ 7/14]



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