科学と情報


パソコンが普及する以前から、私たちは自動車、電話、家電製品、等々、 文明の利器に囲まれて生活している。パソコンが私たちに提供してくれるものの中に 「情報」があるが、情報を提供する機械という点で、 パソコンはテレビやラジオなどと共通する面を持つ。

一口に情報と言っても、その意味は広い。広義には、私たちの五感に入ってくるもの すべてが情報だ。文明生活の中では、電話の向こうから聞こえてくる声、CDプレーヤー などから響く音楽、時計の示す時刻、サーモメーターの表示する温度など、 すべてが情報には違いない。 しかしパソコンやテレビなどの提供する情報は、それらとは違って (そして新聞、雑誌、書物などと共通して)編集され加工された情報であるという 特異性がある。私たちが日常口にする知識とか情報とかは、普通そうしたものを指している。

今日、私たちは大量の情報の中で暮らして、情報に対して鈍感になっていると言われる。 だが反面、意識しようがしまいが、私たちは情報に左右され、その影響を受けている。 繰り返し入って来る情報、或いはたった1回きりでもインパクトのある情報は、 好むと好まざるとに拘わらず私たちの脳を支配するようになる。

よく言われることだが、私たちはテレビがなぜ映るのかを知らなくてもテレビを見ることができる。 スイッチを入れるだけで大量の情報が音声と映像を介して入ってくるテレビという機械は、 今のところ最も影響力ある情報媒体だ。その背後に科学的なメカニズムがあることを暗黙に了解しつつも、 私たちはパソコンのように頭を悩ませることもなく、テレビの情報をあたかも日常的な生活体験の如く見ている。 これがテレビのすごさであると共に、扱い方次第では、マインド・コントロールの手段にもなる ということだ。

テレビが提供する情報には、大きく分けてドラマのようなフィクションと、ニュースやドキュメンタリーのような ノン・フィクションとがある。ドラマを見ながら私たちは、それがフィクションであることを了解しつつも、 共感し、感情移入している。感情移入しているときの私たちの判断力は、無防備だ。 ノン・フィクション番組を見ているときはどうか?UFOから霊界まで登場する番組、一見知的なテーマを扱っていながら、 司会者から出演者まで全員で「1つの」結論に誘導しようとする番組、私たちはそれらをどこまで批判的な目で 見ているだろうか?ニュースでもワイドショーでも、どこかの権威者が必ずと言っていいほど評論家として登場するのは なぜか?テレビは視聴者に「判断する」のではなく、「共感する」ことを求めているのだろうか?

特に気になるのは、超自然現象を扱った番組だ。オカルトや超能力ばかりでなく、UFOとか血液型とかの「一見」 科学的なテーマを扱う番組についても同じことが言える。そうしたテーマを扱うことが悪いのではない。 番組制作者が、疑問の多いテーマについて相反する見解を提示し、視聴者に冷静な判断を求めている番組なら 意義がある。だが多くの番組は、残念ながらそうではないようだ。そうしたテーマの「評論家」を登場させて、 司会者までが付和雷同する番組、1つの結論に向けて効果音付きで矢継ぎ早に画面を展開する番組、 ここでは視聴者が自分の頭で考える余地はない。視聴者が、あたかもドラマを見るときのように「共感しながら」 見ているとすれば、判断力は麻痺しているではないか。

科学といわゆる超常現象との関係について言えば、超常現象は科学の目で扱われるときにのみ意味がある、 と思う。「そんなものは非科学的だ」と言って検討すらせずに一蹴するのは、科学的な態度ではない。 他方、「科学では割り切れない何かが存在する」と言う人は、自分が知らないことを知っていると言う人に 似ている。こう考えることは科学万能主義ではない。科学とは、仮説とその検証を通じて蓄積してきた人間の知識の 集積である。科学は閉じた体系ではなく、知識の周辺に常に未確定な領域を持っている。それまで常識とされていたことが 180度覆されることもあるが、それは科学的な証明が成された場合のことだ。証明されていないことについては 「わからない」と言わなければならない。

しばしば誤解されていることだが、コンピュータとか、DNAとか、ロケットとかの専門用語を並べることが 科学なのではない。また、科学的な常識をひけらかすことが科学なのでもない。科学とは、わからないこと、疑問があることについて、 仮説を立て、試行錯誤を繰り返しながらそれを万人の納得の行く形で証明することであり、きわめて人間くさい行為ではなかろうか。 そうしたプロセスに目を向けないで、ただ科学技術のもたらす恩恵にのみ浴し、科学が結果として持つ魔力のような力だけを信仰するならば、 コンピュータを操ろうが、ロケット技術を駆使しようが、ただの迷信家に過ぎない。

[1997/12/?]



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